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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)674号 決定 1977年1月26日

抗告人 株式会社高米工務店

右代表者代表取締役 岩田公一

抗告人 岩田公一

右両名代理人弁護士 渡辺文雄

主文

原決定を取消す。

アサヒゴーショウ株式会社が抗告人らに対しいずれも東京法務局所属公証人足立勝義作成昭和五一年第三六四号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基きなした抗告人株式会社高米工務店につき別紙物件目録(一)記載の物件、抗告人岩田公一につき別紙物件目録(二)記載の物件に対する各強制執行を許さない。

理由

抗告人らの本件抗告の趣旨及び原因は別紙のとおりである。

そこで本件記録、取寄にかかる東京地方裁判所昭和五一年(執イ)第三七八九号及び同第三七九〇号各事件の執行記録並びに当審において抗告人ら提出の足立公共職業安定所長から第二東京弁護士会会長あて回答書(写)によって検討するに、本件各強制執行の開始の要件である本件公正証書の抗告人らに対する送達は、執行官職務代行者熊谷秀雄が、昭和五一年六月一六日午前七時二〇分頃、抗告人ら肩書住所地の近くの足立区扇一丁目四五番一五号に居住する塚本芳久をして抗告人会社事務所前まで案内させ、同所で同人に本件公正証書の謄本を交付することにより、いわゆる補充送達としてなされているのであるが、右塚本芳久は抗告人らのため有効に右債務名義の送達を受くべき資格を有しなかったものというべきである。すなわち右塚本芳久は、昭和四九年一一月一日抗告人会社の取締役に就任した(抗告人会社登記簿謄本)が、昭和五一年五月一七日付抗告人会社あて取締役辞任の届出書を提出(同日付内容証明郵便)して取締役を辞任し、右送達当時抗告人会社の取締役の地位になかったことが認められ(右辞任につき未だ登記手続を経ていなかったが、取引行為ではない民訴法による送達に商法一二条の適用はない。なお最高裁判所昭和四三年一一月一日第二小法廷判決参照。)、また右執行官職務代行者は前記案内を受ける際債権者代理人から塚本芳久を抗告人会社の経理部長として紹介された(同執行官職務代行者の報告書)が、右塚本芳久は昭和五一年五月二四日申請し同年六月一六日を初回として失業保険金の支給を受けており(足立公共職業安定所長の回答書)、前記送達当時抗告人会社との雇傭関係は終了していたと認められ、結局塚本芳久は当時抗告人会社の取締役ではなく、またその事務員、雇人又は同居者のいずれでもなかったというべきである。また本件に現われた全資料によっても、塚本芳久が抗告人岩田公一の事務員、雇人又は同居者であるとは認められず、前記執行官職務代行者は、塚本芳久も本件公正証書上の保証人であるので、同人に渡せば抗告人岩田公一に渡ると思って同人を通じて送達しようとしたにすぎない(同執行官職務代行者の報告書)。

そうすると、本件各強制執行はその開始の条件である抗告人らに対する債務名義の送達が有効になされることなくしてなされたものであり、抗告人らの本件執行方法に関する異議の申立は理由があり、これを理由がないとして棄却した原決定は失当として取消を免れない。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小林信次 裁判官 滝田薫 桜井敏雄)

<以下省略>

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